プレジデントを読んでいると、こんな記事を見つけました。
『赤字22億円「東京女子医大」の危機的状況』
http://president.jp/articles/-/22523
上記の東京女子医大の場合は、様々ないわゆる不祥事が原因となる側面も否めないのかもしれませんが、僕が勤務している医療機関を含め、赤字経営の病院が多数あるのは有名な話です。
研修医も病院という組織の構成員の1人。もちろん”収益”を上げるようにいろいろと指導されています。
そもそも研修医は「非効率的」な医療を実践することが多いにも関わらず、病院が研修医を雇う理由について以前考察しました。興味がある方はお読みいただければ、と思います。
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さて、病院経営のために研修医はどのようなことを具体的に指導されているのでしょうか?
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DPC入力の際にはできるだけ高い点数がつく病名をつける
ある程度の規模の病院だと大抵の場合は、医療費計算に「DPC(包括医療費支払い制度方式)」という計算方法が使われています。
従来の医療費計算は「出来高払い方式」と呼ばれ、行った検査・手術・投薬にかかる保険点数を足し合わせることで行われていました。今でも、外来診療はこの計算方式で費用計算されています。この方式だと検査をすればするほど、投薬をすればするほど医療機関の売上が上昇することが問題点だとされていました。
DPCは、包括評価部分(入院期間中に治療した病気の中で最も医療資源を投入した一疾患のみに厚生労働省が定めた1日当たりの定額)と、従来どおりの出来高評価部分(手術やリハビリ等)を足し合わせることで費用計算がなされます。
すごく単純化した例を挙げると、この「最も医療資源を投入した一疾患」を決めるのは医師の仕事です。
例えば、慢性心不全が誤嚥性肺炎によって急性増悪した場合、病名は
「慢性心不全」「誤嚥性肺炎」「肺炎」「急性心不全」
などなどさまざまなものが考えられます。「最も医療資源を投下した一疾患」をこれらのうちのどれにするかで、患者さんに請求できる金額が大きく変わってきます。
あまりに不採算な病名をつけていると、医事課から電話がかかってきて、DPCに入れる病名の訂正を求められることもあります。研修医は短いスパンでローテーションする科が変わるため、DPC入力はその科のスタッフの仕事とする場合も多いですが、ときどきDPC入力を頼まれることもあるので「どのような病名をつけるか?」ということに注意を払う必要があります。
できるだけ早期に退院してもらえるようにする
例えば、2016/17年度DPCでは、
「肺炎等(市中肺炎以外かつ65歳以上75歳未満) 手術なし 手術処置2なし 定義副傷病名なし」
に関しては、
入院期間Ⅰ: 1日目~ 7日目 点数: 2977点/日
入院期間Ⅱ: 8日目~ 15日目 点数: 2201点/日
入院期間Ⅲ: 16日目~ 60日目 点数: 1870点/日
出来高算定: 61日目~
となっています。このように入院日数が長くなるにつれ、診療報酬は下がります。
つまり、患者さんが早く退院すればするほど効率よく診療報酬を得られる、ということになります。大抵の病院では入院期間Ⅱまでに退院するように努力するように言われていることが多いようです。
肺炎のようなある程度見通しがつきやすい疾患に関しては、できるだけ短期間で退院していただけるように、入院してすぐ転院先の病院や療養施設を探し始めます。
厚生労働省は、病院が老人ホーム化してしまうことを危惧しています(医療費が莫大になってしまうから)。そのため、このような診療報酬体系にし、早期退院に対して病院にインセンティブを与えることにしているのです。現在では、完全に病気が治らなくても、退院・転院となることが多いです。
ムダな投薬・検査をしない
どれだけ投薬・検査をしても、包括評価部分の金額は一定です。
そのため、投薬をすればするほど病院の持ち出しが増えます。
逆に言えば、できるだけ薬や検査を多用せず上手に治療を行えば、すなわち効率的な診療を行えば、病院の取り分は増えます。
研修医はまだ医者になったばかりで、患者さんのささいな要望にもひとつひとつ答えがちです。エコーの検査や血液検査をたくさん入れてしまうのですが、度を超えるとすぐに赤字になってしまいます。そもそも検査は必ず侵襲を伴うので、患者さんの不利益にもなりえます。
研修医のうちから、必要な検査・投薬を行うように心がけたいものです。
研修医といえども病院スタッフの一員です。最近では、院内掲示板に各診療科の目標入院患者数・目標達成率が公表される病院も多くなってきているようです。
「研修医であってもっかりコスト意識を持つように」と言われることが意外と多いので今回の記事を書いてみた次第です。
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