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「胸痛」と「心窩部痛」

johnhain / Pixabay

救急外来で当番をしていると、「胸痛」や「心窩部痛」を主訴に来院される患者さんに悩まされます。同様に「胸部不快感」を主訴の患者さんにも難渋することが多いです。

 

胸痛」を主訴に来院された患者さんの場合には、

急性冠症候群(急性心筋梗塞・不安定狭心症)

緊張性気胸

大動脈解離

肺動脈塞栓症

の4疾患(いわゆるfour killer pain)を除外することから診療は始まります。

 

研修医の中でも人気の『問題解決型 救急初期診療』を紐解いてみます。

鉄則:どんな胸痛(胸部不快感を含む)を主訴とする非外傷性の患者でも、除外診断されるまでは急性冠症候群として扱う。

とあります。そして、急性冠症候群を否定した場合、心血管系疾患は16%、非心血管系疾患は84%となるそうです。(この統計はプライマリケア外来での統計で、救急外来ではこれよりも頻度が高くなるはず、とのこと)

ちなみに、上記の『問題解決型救急初期診療 第2版』では、胸痛を主訴とする患者さんに関しては、上記4疾患に加えて、心タンポナーデ、食道破裂、急性胆嚢炎、急性膵炎の4疾患を加えた合計8疾患を除外すべきである、と書かれています。

胸痛を主訴に来院された場合でも、胸腔内の疾患とは限らない、というのが厄介なところです。鑑別疾患は、心臓・肺の疾患のみならず上部消化器の疾患にまで及びます。

 

その一方、「心窩部痛」を主訴に来院された患者さんの場合には、上記の『問題解決型救急初期診療 第2版』の「上腹部痛」の疾患を見てみると、

急性膵炎

胃・十二指腸潰瘍(とその穿孔)

急性虫垂炎(の初期)

急性膵炎

胆嚢炎、胆石発作、胆管炎

イレウス

などなど鑑別は多彩になりますが、「心窩部痛」と言われると消化管関係の疾患がメインとなります。ただ、もちろん「胸痛」で挙げたfour killer painもありえます。

 

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「胸痛」と言われるとfour killer painの除外から診療をスタートすれば良いのですが、「心窩部痛」と言われた時に、心電図や胸部Xpはともかく、大動脈解離のための造影CTまで行うかどうかは悩みどころ。

「胸部違和感」程度なら大動脈解離のような激烈な痛みが走る疾患はまずありえないだろう、と言う上級医もいる一方で、「糖尿病」などの基礎疾患でマスクされているかもしれないから、やはりそこは定石通りMUST RULE OUTで除外しておこう、と言う上級医もいて、研修医は翻弄されます。

他にも、肺動脈塞栓症の除外のためにD-dimerを測ってみたら、少し上がっていて、病歴聞いてみると担癌患者さんだから、Wells criteriaの基準を満たして造影しないといけないけど、動脈血ガス分析で酸素化は全然大丈夫だから、ホンマにそこまでいるんかなぁ、みたいなこともあります。

そしてここまでやっても原因が分からず、結局は消化器内科にお願いして、上部消化管内視鏡検査してみて、胃潰瘍による心窩部痛でした、PPI出しときますね、となったとき、徒労感につつまれます。

 

こんな感じが研修医の救急外来のリアルです。日々、「胸痛」「心窩部痛」には悩まされますが、やはり見逃しを少なくするために、両者は同じ主訴だと考えて、日々診療をがんばっている次第です。

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