のび太の後期研修医日記

人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる医師への道


医学関連

子宮頸がんワクチンにみる国民性

投稿日:

いわゆる「子宮頸がんワクチン」に関して、BMJでこんなコメントを見つけました。

 

Teenage boys shouldn’t be given HPV vaccine, says joint committee.
http://www.bmj.com/content/358/bmj.j3523

 

子宮頸がんは20〜40歳台という比較的若年の女性に好発するがんで、その原因の90%程度はHPV(ヒトパピローマウイルス)によると言われています。HPVは性交渉により感染するため、HPVを運ぶ媒体となる10代男性にHPVワクチンを接種すればよいように思われるが、それは違うのではないか、というのが上記記事です。

10代女子のHPVワクチンの接種がきちんとなされている、というのが大前提で、その上で男子も接種したほうが良いのか、という議論です。日本での議論とレベルが大きく異なっているのに驚かされます。

 

 

日本では、2013年に小学6年生から中学3年生はでHPVワクチンが定期接種になりましたが、いわゆる「有害事象問題」で定期接種を差し控えることになりました。

 

この経緯は以下の記事に詳しいです。(buzz記事ですいません)

「救えるはずの患者を救えない」 子宮頸がんワクチン副作用「問題」はなぜ起きた?
https://www.buzzfeed.com/jp/satoruishido/hpv?utm_term=.wxw8mkbpM#.amZ5KqpQR

子宮頸がんワクチン、国内でも予防効果を示す研究報告が続々
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/hpv-vaccine-seimei-3rd?utm_term=.ngwRlLb9z#.mo7QXDJyL

スポンサーリンク

僕は、HPVワクチンを接種すべき・接種すべきでないといった問題について言及するつもりはありません。ただ、統計・データをみるにHPVワクチンを定期接種した方が個人レベルでも、公衆衛生レベルでもよさそうなのに、なかなか定期接種にならないのは日本で暮らす人独特なものがあるのではないかなぁ、と。

※現在でもHPVワクチンは定期接種ですが、厚生労働省は「接種の積極的な勧奨を控える」との立場です。twitterよりご指摘頂きました。

 

自分の行動を「他人がこうしているから」「新聞やテレビでこういっているから」という他人任せにしてしまうのが、いかにも日本で暮らす人間らしい行動規範なのかなぁ、、、と思います。もしかすると島国だから、阿吽の呼吸で行動することが大事とされ、その心が体に染み付いているのかもしれません。

 

HPVワクチンにしろ、乳幼児が受ける定期接種にしろ、毎年受けるインフルエンザワクチンにしろ、きちんと問診票を隅々まで読んでサインしている、という人はそんなにいないのではないかと思いますし、不明点があれば医師に尋ねる、という人もほとんでいないのではないかと推察します。

僕自身、救急外来で一通り説明をした後に「なにか聞いておきたいことはありますか?」と聞いても、「特に聞きたいことはないです」と答える人がほとんどです。

研修医としては、患者さんからの質問にできるだけ答えられる、ここまでは分かっていて、ここから先は分かっていないということをきちんと勉強しないといけないなぁと思います。

 

スポンサーリンク

医療者としては、医療は不確実性を伴うためメリット・デメリットをきちんと患者自身が把握した上で治療選択してほしい、ワクチン接種するか選択してほしい、と思っているのですが、なかなかそうはいかず、なにか悪いことが起きると「そんなことは聞いていない」と怒り出す方が多いのかなぁ、と感じます。こんな患者を医療者は「モンスター・ペイシェント」と呼び、こんな医療者を患者は「パターナリスティックな医療者」と呼ぶため、両者の溝は深まるばかりです。

 

informed consentは日本でも普及してきたようですが、informed choiceはまだまだです。いくつか選択肢を示しても選べない患者さんが多く、「先生が一番いいと思うのを選んでください」と言われることが多いです。そして、その選択で不都合が起きると、医療者を責める、、、日本の医療現場では珍しくないことです。そしてこれは、HPVワクチンに関する日本での対応と同じ構図だと思います。

欧米的な考え方はドライであまり好きになれないことが多いですが、informed choiceに関しては、患者さん自身が自分の病状・治療について理解することにもつながると思うので、日本でももっと普及してほしいと願うばかりです。

 

P.S.) ちなみに個人的には、子宮頸がんの予防策には「本当に子どもを作りたい時以外は性交渉をしない」というのがベストだと思っています。科学的根拠は全然ないですし、現実的に可能かと言われれば難しいですが。。。

 

ランキングに参加しています。他にも『研修医』『医師』をテーマにした面白いブログがたくさんあるので、よろしければクリックいただけると幸いです!
にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ
にほんブログ村

研修医ランキング

 



 

336*280

336*280

-医学関連

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

蕁麻疹か?アナフィラキシーか?

救急外来に「皮膚にぶつぶつが出てきた」という主訴で来院される患者さんが多数おられます。 食べ物?植物のかぶれ?運動?食事後の運動?寒冷?などなど誘引はお話を伺ってもよく分からないことがおおいですが、と …

研修医が受講できる講習会4:T&Aシリーズ

研修医を対象とした医療関係の講習会がいくつかあります。メジャーなものに関して数回に分けて紹介してみたいと思います。一部は学生さんも受講可能です。 今回ご紹介するのは、T&A(Triage an …

コウノドリ -2nd season- 第2話 研修医目線の感想

今話題の医療ドラマ『コウノドリ』。ちまちまと出来る限り感想をアップしていきたいと思います。 今回は第2話です。バックナンバーはこちらからどうぞ。 Amazon prime videoの無料体験で1st …

研修医が受講できる講習会2:ICLS, ISLS, JMECC

研修医やコメディカルを対象とした医療関係の講習会がいくつかあります。メジャーなものに関して数回に分けて紹介してみたいと思います。一部は学生さんも受講可能です。 今回ご紹介するのは、ICLS, ISLS …

上腸間膜動脈症候群とナットクラッカー現象

congerdesign / Pixabay 「上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)とナットクラッカー現象」が時々こんがらがってしまうので、備忘録がてらまとめておきます。   Contents …

doctor_dog

doctor_dog

プロフィール

名前:のび太
とある国公立大学を卒業し、とある病院で働いている臨床研修医。2019年〜小児科後期研修医、2017-2019年初期研修医。研修医になって見て感じたことを記録に残したくてブログをはじめました。のび犬じゃないよ笑

※当ブログに掲載している情報、特に医学的情報は医学を勉強途中の研修医の意見に過ぎません。その点を留意の上お読みくださいませ。

twitterのフォローはこちらから!