有名医学雑誌NEJMを眺めていると、こんな興味深い論文がありました。
“Overall Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma”
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1709684
メラノーマの治療にニボルマブとイピリムマブを組み合わせるともっと予後が良くなるよ、という趣旨の論文です。もともと両者を組み合わせた治療の効果は実証されていて、今回の論文は3年フォローした結果報告です。詳細は読み込めてないですが、
こんな金のかかりそうな治験をよくできたなぁ
というのが正直な感想。メラノーマだからこそできたのかもしれません。
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抗体製剤は極めて高価
ニボルマブ[商品名:オプジーボ;抗PD-1抗体]もイピリムマブ[商品名:ヤーボイ;抗CTLA-4抗体]も免疫系に作用する抗体製剤です。
ニボルマブといえば、もともとメラノーマに承認されていた薬ですが、肺がん(の一部)にまで適応が広がり、適応人数が爆増し、国の財政を圧迫したことで有名な薬。抗体製剤は極めて高価です。
ニボルマブの適応拡大による財政圧迫は一時期「オプジーボ問題」として様々なメディアで取り上げられました。
例えば、このように取り上げられました。
http://www.sankei.com/life/news/160427/lif1604270007-n1.html
「1剤が国を滅ぼす」高額がん治療薬の衝撃 年齢制限求む医師に「政権がもたない」(産経ニュース)
ニボルマブ+イピリムマブというダブル抗体製剤を用いた治療が今後広がっていくのでしょうか。それもメラノーマだけでなく肺がんにまで。。。
高価な治療であっても患者さんの負担は低く済む
普通に考えると、千万単位の高価な治療は普及しないのでは、と思われます。ただ、日本は国民皆保険制度が敷かれている国。
現役世代でも3割負担で大丈夫ですし、これに加えて高額療養費制度があるため、毎月の医療費には上限があります。
例えば、一般年収世帯(年収156万~約370万円)だと月額57,600円が上限になるようです。(制度は刻一刻と変わる随時ご確認ください)
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
年間100万円足らずでどんな高額な医療であっても保険診療内であれば受けることができる、というのが日本の医療の素晴らしいところであり、財政を圧迫する点でもあるのです。
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保険診療の適応拡大にもって慎重になるべき
メラノーマに対してニボルマブを保険適応にするのは(患者さんの数が少ないので)理解できるのですが、肺がんに適応拡大する際に、国はもっと慎重になるべきだったのではないかと僕は思います。
これから、抗体製剤はたくさんたくさん登場することが予想されます。薬価収載の際には、efficacyだけではなく適応対象となるpopulationやそれに応じたcostにも注目する必要があるのではないかと思います。
患者層別化の研究が求められる
抗体製剤を開発しその効果を検証する、そして抗体製剤同士を組み合わせるとさらに効果が上がる、という研究も大切であることには間違いありません。
ただ今後もっと大切になるのは患者の層別化(patient stratification)を行う研究だと考えます。つまり、例えば「ニボルマブはどのような患者に効果が高いのか検証する」といった類の研究です。そしてニボルマブといった抗体製剤は高価なため、(少なくとも保険診療の範囲内では)効果の高い患者のみに用いるべきです。
そして、欲を言うならば、患者数の多いことが予想される新規抗体製剤の薬価収載はpatient stratificationがある程度済んでからでもよいのではないか、と思います。それまでは、抗体製剤は使いたい人が自費で使う、というスタイルで良いのでないのでしょうか(混合診療になっちゃうので負担がえげつないことになって、結局使わない人が多くなる気がしますが)。
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まとめ:医療における需要・供給バランスは普遍的な問題
以前こんな記事を書きました。
この中で、
この手の問題の話になると、いつも、
医療は需要は無限大であるが、供給すなわち医療資源は有限である
ということを実感します。
人は誰しも「少しでもよい医療を受けたい」と願います。そしてこの気持ちに罪などあろうはずはありません。どれだけお金を積んでも「少しでもよい医療を」と思う患者さんは多いです。この「少しでも」が患者さんの数だけ足し合わせると、かなりのamountになってしまいます。
と書きました。この抗体製剤の話にも当てはまることかと思います。
いつもいつも思うことですが、難しい問題ですね。。。
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