小林麻央さんが2017年6月22日に34歳の若さで夭逝されました。これを受け国民の間で乳がんに対する関心がかつてないほどに高まっているのを感じます。僕も研修医として乳がんについて勉強してみました。
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乳がん患者は日本において増加している
国立がんセンター「がん情報サービス」(2016年のがん統計予測)によると、2016年には9万人の日本人女性が乳がんにかかると予想されています。がんにかかる女性の総数が43万人程度と予想されており、臓器別では乳がんが第1位となります。女性の12人に1人は罹患するガンとも言われています。また、厚生労働省人口動態統計(2017年6月2日発表)によると、乳がんで亡くなる女性は2013年には1万3000人を超え、大腸がん・肺がん・胃がんについで死因第4位となっています。
つまり、乳がんは罹患する人は多いものの命を奪うことは他の癌と比較して多くないといえるのかもしれません。これが乳がんの早期発見・早期治療が重要だといわれる所以なのでしょう。
乳がん早期発見のために
では、乳がんを早期発見するために、どのような手法があるのでしょうか。
よく言われるのが、
・セルフチェック
自分で定期的に乳房を触診し、腫瘤が触れないか確認する。頻回に乳房に触ることで少しの異変にも気づくことができる。パートナーが腫瘤に気づくこともあるらしい。
・マンモグラフィー
定期的に乳房版レントゲンの検査を受ける。腫瘤が分かりやすくなるように乳房を圧排し、X線画像を撮影する。
・超音波検査(エコー検査)
産科検診で使うようなエコーを用いて、乳房内に腫瘤がないか探す。
以上の3つです。自治体によって異なりますが、マンモグラフィーは40歳以上の女性が年に1回受診することが推奨されることが多いようです。多くの市区町村で住民検診の1つとして実施されています。
マンモグラフィーと乳腺濃度
これらのa.〜d.の画像はRadiologyという雑誌で発表された論文からの引用です。どれも正常乳房の画像です。「正常」といってもなかなかに多様であることが見て取れるのではないでしょうか。
乳房の「白い」領域はfibrograndular tissueであり、その濃度をBreast density(乳腺濃度)と呼びます。以下の4つに米国では分類しています。[ ]内は拙訳です。一般に通用する訳語ではないです。
(a) Almost entirely fatty [乳腺濃度は極めて低い]
(b) Scattered areas of fibroglandular density [乳腺濃度が高いところが散在]
(c) Heterogeneously dense [まだらに乳腺濃度が高い]
(d) Extremely dense [乳腺濃度は極めて高い]
(a)から(d)に進むに連れ、「白い」領域が増え、その分乳がんを読影しにくくなります。(乳がん検出の感度が下がる)ちなみに「黒い」領域は脂肪です。
実は年齢を経るに従って(d)の乳房から(a)の乳房へと変化していきます。若い頃は、fibrograndular tissueに富んだ乳房も、年を経るにつれて脂肪に置き換わり、たらちねの母になりゆくイメージでしょうか。
したがって、若い方(40歳代の方)に関してはマンモグラフィーの検査意義は難しいところです。
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40代の乳がん検診には超音波検査(エコー検査)を併用すると有効
そこで、40歳代女性を対象に、乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験が行われました。
このRandomaized Control TrialはJ-STARTと呼ばれ、結果はLancet誌に2015年発表されました。
“Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial” Lancet. 2016 Jan 23;387(10016):341-8.
日本語でのプレスリリースは、こちらです。
約76000人の40代を「マンモグラフィー群」「マンモグラフィー+超音波検査群」にランダムに割当て、2年間フォローしたところ、乳がん発見数・発見率において超音波検査を加えた群で有意に高値だった、とのことです。特筆すべきは、StageII/IIIの乳がんにおいてはどちらの群でも同程度の発見数・発見率だったのですが、Stage0/Iの乳がんにおいては超音波検査を加えたほうが成績が良かった、とのことです。超音波検査は特に早期乳がんにおいて有効のようです。
詳細は上に示した元論文あるいはプレスリリースをご参照ください。
自治体によって検診項目は異なる
自治体によってマンモグラフィー・超音波検査いずれを行うか、対応は異なるようです。
例えば大阪市では、
・40歳以上はマンモグラフィー
・30歳代は超音波検査
としているようです。(2017年6月25日閲覧)
上で示した研究をそのまま適応するのであれば、40歳以上は「マンモグラフィー+超音波検査」とすべき、いや、理想を言うならば全女性に「マンモグラフィー+超音波検査」を行うべきなのでしょうが、住民検診では費用の兼ね合いも無視できないのだと思います。むしろ、以前は40歳代以降だった乳がん検診の対象を30歳代以降にまで増やして、より若い30歳代は超音波検査を行う、というのはとても理にかなった行政政策かと思います。
心配なら自費で乳腺クリニック受診を
とはいえ、お金がかかってもいいから乳がん検診に関してはマンモグラフィーも超音波検査もきちんと受けたい、という方は多々いらっしゃると思います。日本においては検診は自費診療(保険診療の対象外)。ですから、検診は自由に受けられます。
最近ではたくさん乳腺クリニックが開業しており、「スタッフが全員女性」であることを謳ったものや、「マンモグラフィー読影技術がA+」であることを謳ったものなどさまざまです。自治体の住民検診では不十分だと考えるのであれば、ご自身がいいと思うクリニックで(お金はかかるけど)受診されたらいいのでは、と僕は思います。
これから患者さんに尋ねられることも多くなるだろうから、自分の勉強がてら、乳がんについてつらつらと記してみました。このページをご覧の方はあくまで自己責任でこの記事を咀嚼していただければと思います。
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